ブック・オブ・ドラスティック・レゾリューション
プラックスの書(日本語版)


※当レビューは「Scoops RPG」ホームページにて掲載されたものです。

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著者:Stephen martin、Greg Stafford 他
翻訳:まりおん 他
カテゴリ:RPGファンジン
発行社:Doom Lords
形態:ブックタイプ
ページ数:104
値段:1500円
レビュー著者:宇津見(wfe0wyrm@mbn.or.jp)

 これは、Issaries 社から発売されている、ルーンクエストのセミプロ誌『THE BOOK OF DRASTIC RESOLUTIONS VOLUME PRAX』を翻訳したものである。

 ファンジンとはいっても、 Greg Stafford をはじめとするCaosium 社のルーンクエストのデザイナーたちが執筆作成しており、事実上の公式サプリメントといってもいい。なおかつ特筆すべきは、翻訳版の製作と発売が、日本のルーンクエストファンの同人グループ Doom Lords によって、Issaries 社と独自に契約を結んだ上で行われている事である。

●内容

 内容は、グローランサのプラックス地方と大荒野地方の記事の内、サプリメント『ゆりかご河』や、セミプロ誌『Tales of the Reaching Moon』14号、15号にこれまで収録しきれなかった、荒野と騎獣遊牧民の詳細記事を中心に収録し補完したものである。
 あくまでも補足資料集という性格から、これ単体でプレイしたりキャンペーンを運営したりするのはさすがに辛い。しかし既に『ゆりかご河』や『Tales of the Reaching Moon』の記事を充分に理解して使いこなしているなら、非常に役に立つ情報が多い。

 以下に、収録されている記事を挙げていく。

・プラックスの聖地、プラックス/大荒野の季節、プラックスの夜空、ワッハの足跡
 プラックスと大荒野に点在する重要な土地や、地理についての解説。荒野の旅を扱うのに必要。

・プラックスの部族、ハイラーマ族
 プラックスの部族と氏族の社会構造、風習、個々の部族の解説。

・プラックスと大荒野の神話、プラックスのカルト
 ワッハ、アイリーサ、捨て子、ロウドリルのカルトに関する補足と、イェローナ、バスモル、オークフェイドのカルトの完全解説、小規模な精霊カルトの解説、マイナーな神話エピソードなどを収録。

・地図:大荒野
 地名や地形が詳細に記載された、大荒野の完全な地図。

・正誤表と解説、”Nomadn Gods”の新ユニット
 プラックスを舞台にしたボードゲーム"Les Dieux Nomades(Nomadn Gods)"の正誤表や、追加ルール。

・プラックス動物誌
 ボロ・リザード、ブルー亜種、コンドル、ハイエナ、犀、等の、プラックス固有の生物の解説と、ゲームデータを収録。ただページ数の都合か、身体部位別耐久力の例を掲載せずにユーザーで計算するようにしているのは、面倒である。

・プラックスの略奪品、まじない袋、ターダの恐るべき遺宝、プラックスの大いなる魔術
 プラックスに存在し、入手できる、様々なマジックアイテム等についての解説集。

 あと、ファンジンということもあるだろうが、扉絵はもっと良い絵を使ってもらいたいし、編集もいまいち洗練されていない。これは原書の問題である。

●翻訳について

 先にも述べた通り、翻訳と発売は日本のルーンクエストファンの同人グループ Doom Lords によって、Issaries 社と独自に契約を結んだ上で行われている正規の翻訳だという事である。通常のRPG製品に比べて権利を獲得しやすいセミプロ誌とはいえ、これは画期的な事だと思う。
 翻訳は、最初からルーンクエストのヘビーユーザーを対象に絞れる事から、しばしば翻訳で問題になる日本向けのアレンジは無く、イラストやレイアウトも含めて、極力原書を尊重したものになっている。
 翻訳作業は、ネットワーク上の会員制の掲示板で行われており、ここで作業分担や、翻訳の検討が行われた。そして、電子メールで元の著作者に問い合わせる事もしばしばあった。そうして日本のRPG翻訳製品の中でもかなり水準が高い翻訳作業ができた。
 実を言うと私は、作業には関っていないが、この翻訳作業当時の状況もよく知っている立場にある。こうしたネットワークの積極的な利用は、しばしば日本のRPGシーンで問題になる、翻訳スタッフの確保、迅速で的確な連絡や意思疎通、訳文の充分な検討などに重大な示唆を与えていると思う。
 しかしまた、同人でこれ以上の仕事は難しいという限界も見え、だからといって新たに会社を興すほど余裕のあるものも誰もいないというのも、事実であった。今後のプロの奮起を強く願う。
 今回の作業が今後の日本RPGシーンにおける翻訳の仕事に、良い影響を与えるとこを期待したい。

●総合評価

 本来は、ルーンクエストのヘビーユーザー向けの物である。しかし、日本RPGシーンにおける翻訳という事に対して、一般ユーザーが独自の大きな成果を確かめるという意味でも、購入をお薦めする。
 東京都内では、千代田区神田神保町の書泉ブックマート2階RPGコーナーで取り扱っているが、そちらに出向くとこができない人は、まりおん(yelmalio@za2.so-net.ne.jp) まで、問い合わせの電子メールを送ること。