The Inspiration of
Moonson Vol.2
Hon−Eel The Artress
|
著者: DUCK NICORSON |
本書は、ルーンクエストの同人誌を作り続けてきたサークルOUTLANDのダック・ニコルソン氏が放つ、前作『フワーレン・ダールシッパ』に続くルナー帝国の女英雄「月の息子の霊感」物語のシリーズ第2作に当たる。
時は太陽暦1458年、ルナー帝国は大悪霊使いシェン・セレリス率いるペント騎馬民族によって滅ぼされ、「雌伏の時代」なる屈辱的な日々を送っていた。物語はかつての大都市ドブリアンを舞台に、やんちゃな少女のホン・イールが急速に妖艶な女英雄へと変わってゆく様を描いている。
その厚みのある文章は、せっかちに走ることはなく、さりとて退屈に澱むこともなく、あくまでも流麗に語っていく。そしてそれを補うイラストと漫画は、見る者の目を引き付けずにはおかず、緻密な線と丁寧な構成とで場面場面を切り取っていく。
絵と文、このふたつの軸が相成って、ホン・イールの生涯とルナー帝国興亡の歴史という大きなうねりの中で確かに息づいていたであろう一筋の流れを、鮮明かつスケール感たっぷりに描き出している。
また本書は、赤の皇帝マグニフィクスの物語としても興味深い(読者によっては彼こそが主人公だと感じることだろう、かく言う私も)。11年も平民に身をやつして潜伏していた彼が、ホン・イールと機織り女とのささやかな家庭と、皇帝としての帝国再興の使命との間にゆれる様がほの暖かく、悲しい。
本書の魅力の秘密は何であろう? 豊かな表現力が織り成す物語のおもしろさは既に述べたが、それだけではない。切り口の冴えにあると思う。
ホン・イールという英雄が内含する「相」は多い。月の息子の第三の霊感、穀物の女神、踊り子、技巧の女、遊牧民を駆逐した戦神、赤の女神の転生、など。また彼女が成した偉業・活躍も多岐に渡り、その資料は膨大な量に上る。
これら全てに真っ向から組み合おうとすればその苦労は資料の収集・整理だけでも多大なものとなるであろうし、多くの相を持つがゆえ一貫しての統一的なイメージが構築しづらいだけに物語としてのまとまりに大きな不安がある。
そこでニコルソン氏は、あえて一点で勝負してきた。
彼の最も好きなホン・イール、「技巧の女(The Artress)」という相を全面に打ち出し、帝国の再興という切り口で鋭利にまとめ上げた。
この様な手法は、自分の思い入れを優先するあまり書き手の独りよがりに陥りやすい危険をはらんでいるが、本書では補足編にもあるように執筆の前段階として多くの資料の整理・検討を重ねた上で著者の最も描きたいホン・イール像を再構築して展開しているため、単なる思い入れだけでは得られぬ説得力が備わっている。
ルーンクエスト/グローランサは多くの熱心なファンに支えられて、毎年多くの同人誌が出版されている。内容も、海外未訳資料の翻訳、カルト・ルール・シナリオ等ゲームのサポート、グローランサ世界の研究、自分たちのプレイングの紹介、など様々だ。
その中で本書は、またひとつの新しい方向性を示してくれた。
ニコルソン氏の情熱は、数多の資料・設定を材料にそれらよりもう一歩踏み込んだ新たな物語を生み出すことに成功した。それは、氏が独自の表現方法を確立したというだけではなく、読者にとってはグローランサという巨大で奥深い背景世界を持つルーンクエストならではの楽しみ方の発見でもある。
今後も氏の作品に期待したい。
代表:保倉誠(BXW03353@nifty.ne.jp
)氏まで、通販希望の旨を明記の上、メールにて問い合わせを。