King of Sartar The Mystery of Argrath;How One Man Become a God
※当レビューは[Tales of the Reaching Moon #9」にて掲載された書評を翻訳したものです。
著者:Greg Stafford |
King of Sartar は、グレッグ・スタフォードの、グローランサで最もポピュラーなセッティングへの待望の回帰である。この300ページにわたる本は、“世界の至高王”アーグラスを研究する学者が第四期の後半にまとめた、ドラゴン・パスの人々や英雄戦争に至る歴史に関連した文書の編集物という形となっている。彼の研究の動機は「結論」の最後で明らかになる。それは(控えめに言っても)重大なものである。
内容は、古代の5つの文書を出典とする。「注釈付きアーグラスのサガ」、「ドラゴン・パス合史」、「アーグラスの書」、「ジャルクの書」、「オーランスの神話」である。これらの文書の由来は序説として説明されている。内容は物語そのままのもの(「アーグラスのサガ」)から、よく整理された研究(「ドラゴン・パス合史」)、ジョンスタウン文書のような関連した情報の断片をごちゃまぜに集めたもの(「アーグラスの書」と「ジャルクの書」)まで、多岐にわたっている。また、ドラゴン・パスの地図、英雄戦争から第四期までの年表、包括的な索引が付いている。
グローランサへの入門書としては、おそらく本書は一般的な読者には折衷主義的に過ぎるだろう。これは世界背景に詳しくない者に提示された情報量が膨大すぎて消化しきれないということではなく、むしろ本書の内容があいまいな抽象的表現が使用されており、読者側に前もって知識が必要とされることによる。例えば、「アーグラスのサガ」の中の二つの敵、ルナー帝国とシェン・セレリスについては、ほとんど全くといっていいほど記述がないのである。この本はタイトルの通り、第一に「サーターの王」自身、彼の使った力、彼の支配した人々を説明しようとした本であり、彼が相対した敵は範疇に入っていないのだ。一読すればその理由は分かって頂けると思う……それを入れる場所がないのだ!(グレッグ氏は現在第二巻として、ルナー帝国についての本を計画しているという。彼の幸運を祈ろう)
この本をグローランサ・RQキャンペーン、特にドラゴン・パスを舞台にしたもののソースブックとして使うのは容易である。サーターとグレイズランドについては詳細なサポートとなり得る。ルナー・ターシュについては難しいかもしれない…住人やルナーの宗教についてはあまり記述がない。一方、パスの他の地域にはほとんど触れられていない。例えば、エシルリスト卿は脚注の一つに登場するにすぎない。本書は「単なるボードゲームの本」ではないのである。
「アーグラスのサガ」は英雄戦争での叙事詩的冒険を望むGMにとって豊かな情報源となるだろう。大王の赤の月との戦いの物語は、文中にいくつも矛盾や混乱が見られる(本書の後半の報告と比較すればそれはもっと際だつ)。これはイベントを自分流のやり方で語り直したい者にとって理想的なものとなっている。しかもこの「サガ」は細部で必ずしも一致しない二系統の文書を合成したものであり、同じ物語を同じ場所で語ってさえいない。例えば、一方の文書は二人のスーパーヒーロー、ハレックとジャ・イールの激突についての記述を省略している。もう一つの文書は、彼らの一方が確かに死んだと書かれているにもかかわらず、次のページではなんの説明もなくその人物が再登場しているといった具合なのだ。文書内には年代は記されていない。年表と文書では、1640年以降の年月は「伝統的なもの」であると強調されており、また赤の月の落下の年代も「子供のなわ飛び遊びの歌詞に伝わるもの」から類推されているのである。つまり、この文書は故意に疑わしいものとされている。貴方はこれを自由に使ってよい。
「合史」は“歴史的に正確な”RQキャンペーンのために最も有用なセクションだろう。草飼う民とサーター・ターシュの地についての第三期のはじめからおよそ1640年までの詳細な歴史が解説されている。今まで詳述されたことのなかった人々の創設の歴史記述などと共に、グローランサの歴史の中の幾つかの事件を、生き生きと詳細に解説した物語が語られている。例えばボールドホームの陥落、スターブロウの不運な反乱、ウィンドトップのドラゴンの目覚めなどである。一方、行間にほのめかされたことより、この三つの民の社会と宗教について新たな光が当てられている。
「アーグラスの書」では、この英雄に関する様々な断章の中に、サーターの部族によって再演される、二週間にわたる「光持ち帰りし者たちの巡礼」儀式についてと、アーグラスのドラゴンとのつながりに関わる雑録、ワームの友邦帝国(かつてこの名で呼ばれていなかったかもしれないということが明らかになった!)に関する物語が含まれている。
「ジャルクの書」は、無文字時代に対する防塁として知識を書き留めた、明らかにでたらめに集められた収集文書である。本書中でも最も魅力的な解説の幾つかがここに収められている。例えば、オーランス人の太陽神、かつてはオーランスの忠実な近侍であったが後にイェルマリオに発展したエルマル神についての記述。また「コリマーの書」(Colymar's Book)(本来は「Kolymarsbok」だった)は、サーターの最も古い部族の構成と歴史を調査したものである。「オーランス人に関する報告」は、素晴らしい、ユーザーフレンドリーな、オーランス人の社会・法律・慣習に関する説明となっている。そして、おそらく本書中で最も気をもませる文書である、「アーグラスと悪魔」。最後の「オーランス人の神話」のセクションは、その名の通りである。整理され均一化された神知者によって改変された神話ではなく、これまで説明されたことのなかったオーランス人自身によって語られた物語である。大きな変更がいくつもある。例えば、ウーマスの営所はスパイクの上の無欠の宮ではなく「法の岩」の上に作られたとされている。ときに「蛮族的な」要素─血統や様々な地方的な地名が神話の各所に現れることなど─が避けがたく現れている。だがこれはこの情報が忠実に伝えられた信ずる価値のあるものであることを示している。収集された神話の中には、不浄の三神の起源やユールマルの最初の剣に関するエピソードなどのよく知られた一度語られた物語の他に、「ドラゴン・パスのおこり」や「オーランス、大人になる」など新しい神話も含まれている。もちろん、今まで出版された中で最も完全な「光持ち帰りし者たちの探索」についての記述がある。
もし貴方がグローランサを楽しんだことがあるのならば、GMとしてでも学者(Scholarとしてでも、この本は必読の書である。「King of Sartar」は何年にもわたって熱心に問い続けてきた問いに対する解答がいくつも含まれている(社会的な効用としては、我々は出会ったときに色々と話すことができた)。グローランサで書かれた書という設定で提示された本書は、“全知の”ナレーターが引き起こす問題を回避している。歴史としてその欠点をわざと強調し批判することによって、本書は想像に拍車をかけるのである。もし物語の一部が読者やGMのためにならないのならば、それはイベントが起こった後数百年後に書かれた「偽書」として捨て置いてしまってもよい。我々は、結局のところ、英雄戦争の時代にドラゴン・パスを旅し、サーターの王自身と会見することができるのだ。伝え聞く恵み深いハーシャクス王朝の下でこの書を書いた無名の編者(訳注:著者のグレッグ・スタフォードのこと)は、必要とされる情報を与えてくれたが、我々より優位に立っているわけではない。そこに赴き、発見をするのは我々自身なのであるから。