ファラオ! The Pharaoh

Tradetalk No.5より

グレッグ・スタフォード 筆


グローランサは謎めいた場所であり、私はいまだにその秘密のいくつかを明かす覚悟ができていない。ベリンターの物語はそんな秘密の一つだ。ベリンターは類まれな個性であり、大部分の人間がそうであろうと想像する以上の存在であり、彼にしたがう者たちにさえ、その出生については秘密にされている。彼がファラオになろうとした探索の中で起こった出来事すら覆い隠されていて、それを暗示する断片は、エスロリアの寺院の秘密(ベリンターの蘇生について書かれていると信じられている)など、あちらこちらに分散している。また自ずと目立つ彼の行動は、「鉛の丘」のようなもので残っている。これは、彼が殺した巨大な暗黒の怪物の骸骨である。全ての人が数少ない当たり前の事実については知っている。たとえば彼が行った「黒曜石の宮殿」の破壊や、「銀の時代」の英雄達の召喚のように。

 しかしそれ以上の事実があるのか?その通り、大量の噂や、ゴシップや、宣伝文や、研究が今日のケタエラの民の頭の中を占めている。私は貴方独自のお気に入りの理論があることを望ましく思う。しかし実のところ、我々が「本当に」知っていることの全ては、彼が自分の本、「ベリンターの書」で彼自ら記した事実なのだ。この文書は彼が失踪して以来、周辺地域一帯に流布している。以下はこの本の中の文書で、彼自身について直接的に書いたものである。ここにこの時点での、ベリンタール、ケタエラのファラオについての全てが収められている。

 


 私、「世界の王」は、私がこれから去ってゆくことを知っている。一世代の年月の間に戻ってくることはないだろう。そしてその帰還に備えて、私はこの文書を認めておいた。この文書はこの愛すべき世界の核心について語る、きわめて重要な資料となる。

 私は、私の家族と、心の友である君たちにこれを複製して配布するようにお願いする。私の最終的な帰還に備えて、この文書が私の手元に届くように助けて欲しいのだ。「生命」の目的はこの「大いなる秘密」を探し求めることにあるのだから。
(*1)

署名、ベリンター 
太陽暦1612年、嵐の季、12日 
林檎の息子 イェルム暦112,612年 

ハーシャクスの王 
(Lord of Harshax) 

(訳注:エジプト風の絵画。一なる老翁であろうトロウルが左端に立ち、右端に立つファラオであろう人影と対峙している。老翁の頭上には「暗黒」、「交渉」、「変化」のルーンが横に並べられているが、ファラオの頭上には「魔術」、「人間」、「支配」のルーンが縦に並べられている。
 一なる老翁の前には三本の神聖文字の描かれた柱があり、ファラオの後ろには一本の同じような柱があるが、ファラオは頭と腰と足首をこの柱に結びつけている。二人の間にはテセルであろう女性のやせ衰えた姿が座り込み、頭には「支配」のルーンの描かれた帽子を、右腕には「真実」のルーンの形の杖を持ち、左腕には燃える太陽のルーンを支える斧を持っていて正面を向いている。
 テセルの頭上には山があり、三つの真実のルーンが置かれていてテセルの背は重さでかがみこんでいる。山の上にはサギの絵が描かれている。)


呼びかけ

 我が足である山が縄に、我が手は感覚の鎖によって縛められている。涙と祈祷の両方からできた梯子が私を肩掛けのように包み込んでいるが、それの多くが色に染められ、絵が描かれている。

 この世界の物語は天空にある巻物から広がり、梯子のように染色されている。しかしそれはまた虫食いや、爪あとや、焼け焦げの穴によってひどくぼろぼろになっている。歴史の切れ端が風の中でひるがえっている。ひとつの雲、普通のものよりはるかに濃密な雲が網にかかって溺れかけているニュートリングのように、それらの切れ端にひっかかっている。そのもがきは、今では弱く、ほとんどなくなりかけている。

 いまや私の前方には、私の戦う相手がその鼻から熱い息をおだやかな音で洩らしている。私は彼も目を細めていると思うが、彼のすが目がどうなっているか、はっきりと見分けるのは困難だ。なぜならそもそも彼の豚のような目は小さすぎるからである。彼もまた、鞭の音を聞いていた。

 「主人の鞭だ」――彼は言う。これが彼の答えだった。これが私の心から響いてきた音色を露にすることで私が持ち出した質問に対する答えだったのだ。彼はそれ以上答える必要はなかった。しかし彼はさらに続ける。「お前にはこの鞭による苦しみがわかるだろう」――彼はほくそ笑んだ。「お前も鞭打たれるぞ」

 しかし彼はまたもや間違っていた。そして私は自分が編んだ罠の網目がきつくなりつつあるのを知っている。彼はなにも分かっていない。そして私が彼の身体を手に入れることになる。

 私は彼に自分の力を見せてやった。私は彼に自分の魂を見せつけた。彼には何が真実か分からない。私は鞭の鳴る音を憎む。そして彼は、そのことは私が私自身の君主権を憎んでいることを示していると信じている。彼は私が鞭打たれたと考えていて、そして今ではそのことから痛みを感じていると考えている。彼はいまだに私が善良過ぎると考えている。彼は間違っている。そして私がこの世界の王となるのだ。

 争いの側面には、私の右手、そして彼の左手に、「真実の」テセルが座っている。彼女はこの決闘の媒介であり、彼女の力がその結果を決め、それを強制することになる。

 彼女は女神であり、世界が創造された時に生まれた。彼女は決して会話しない。自分の祭礼における文句と典礼を吟唱するだけだ。彼女は単純で、ひとつの目的に集中している。女性としては、彼女は可愛くないし、美しくも妖艶でもない。彼女の髪は脱色した金髪で、彼女の目は洗いざらしの青であり、彼女の唇には血の気がなかった。彼女はひどく細くて、やつれ果ててはいないが、おそらく飢えているだろう。彼女の胸は果物の種のようで、着ている簡素な白いガウンの下で、彼女のひざは節くれだった道具の柄のようだった。彼女の手は、ひょろ長く伸びてY形をした杖を握り、まっすぐに自分の前に掲げていた。そのやせこけた腕に力が備わっているはずがないのだが、彼女はふらつくことがない。このことが結局のところ彼女のしたただひとつのことだった。

 彼女の役目は、創造の曙の時より、それがわかる者にはいかなる者にも、真実を提供することであった。もし彼女がここにいなかったら、私は自分の前に座っている彼の存在するところで、あえて座っている勇気はなかったかもしれない。しかし真実はここにあり、私達はそれに基づいて誓い、私は勝利することになるだろう。


(*1)訳注:ベリンタールが「時間旅行者」であることを暗示している。

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