「皇帝の声」〜帝国の諜報組織
Emperor's Spoken Word
by Matthew Tudor
翻訳:しーちゃん
「皇帝の声」はルナー帝国内、とりわけ帝国の政治的、軍事的領域における安全保障組織として機能している。3/17(ST.1372年)頃、皇帝みずからの発案によって生まれた「声」は、ルナー帝国の統制の基盤を守り、帝国の存続と発展を脅かす恐れのある暴徒、煽動者、革新主義者、破壊活動分子を排除し、同時にあらゆる方法で愛国心を忠誠と奉仕へと導くことを主たる目的とする。
「声」の正確な起源は知られていない。文献は「声」がまさしく赤の皇帝の吐いた息(「言葉」と「意志」)から生まれ、その位階はその二つの異なる組織から形成されたと伝えている。二つの組織とはすなわち「皇帝親衛隊」と皇帝の私設特使ならびに伝令官の組織である。厳しい懸念の時代に当初保安と警察活動のために設立された皇帝の私的親衛隊である「声」は、皇帝が最初に懸念していたよりもはるかに大きな義務と責任を有した半自己規定能力を持つ内部“警察”力へと進化しつづけている。
ルナー政府の大半の組織とは異なり、「声」は官僚政治の拘束から比較的自由でである。その理由は、本質的に皇帝自身のみがこの勢力の組織に責任を有しているためである。しかしながら皇帝自身が一個人として、直接的に「声」を始終監督することは不可能であり、また現実的でもない。効率的で効果的な組織運営を容易にするために、「調査官」の管理組織の骨格が組織された。実際、この組織は組織の日々の懸念と、皇帝の要求と願望の仲立ちをしている。皇帝だけが人員の新規補充と昇進に関する権利を有している。これはすなわち最も忠誠心にあふれるルナー臣民だけが「声」に列せられる、ということである(実際には調査官が皇帝の同意を得るに先だって将来の候補者を選び、綿密な調査を行っている)。
それ故「声」は二つに分けることができる。すなわち「諜報員」(言葉)と「調査官」(意志)である。両集団は、究極的には赤の皇帝にのみ責任を追っている。
「声」が属領地の安全保障を預かる部署の内外で活動を許されているという事実は重要である。一方で属領地の安全保障監督官の補佐官たちの間に「声」に対する不満がある事、たとえそれが厳密に見れば不可侵の存在でないとはいえ、アッピウス・ルクシウスとの関係は健全なものであることには注目すべきである(1)。
軍の情報部との関係は、あらゆる関係の中でもっとも緊密なつながりを有するものである。二つの組織の間で情報交換が頻繁に行われ、両者の協力が重視される。軍の情報部員が同時に「言葉」の諜報員でもあるケースもないわけではない。実際に軍の情報部長であるダギウス・フューリウスはかなりの立場にある「言葉」の構成員だと噂されている。
その活動と組織という点から見れば、「声」は本質的に世俗的組織のような形態を有していおり、国家のカルトというよりも、軍隊に似ている。しかしながらその起源と赤の皇帝の聖なる認可により、「声」はカルトの典型的な利益をいくつか享受している。
「声」は、赤の皇帝を(そして文字通り皇帝の言葉も)みずからの神性としている。神学的な構造、および利益に関する情報、およびその詳細はあまり知られていない。構成員の一部、通常「意志」の調査官は、独特で強力な魔術を完全な形で有していることが言及されている。また滅多に言及されることはないが、皇帝親衛隊に対する取締りに責任を有する者たちに関しては、一般的なルーン王クラスの実力を有していると噂されている。
「声」への選抜を決定する要素が、経験の質であるという言及は興味深いものである。皇帝は地位や生まれ(そしてしばしばルナー政府の他局での地位も)よりも、全般的な適合と利益から補充人員を選抜すべきであると示唆している。このことが「声」の構成員との信頼関係をより強固なものにすると考えている。
こうした考えにもかかわらず、候補者がルナー臣民の子であるかという問題だけは考慮の対象とされており、ルナー・ハートランドの生まれと育ちが優先される結果となって表れている。この事実は調査官が補充人員をルナー属領地での活動に備えその地で訓練することを難しくしている。
排他的という程ではないにしろ、大半の候補者は軍事的経歴の持ち主である。兵士は日々の勤めの中で、みずからの価値と献身を証明し続けている。しかしながら「声」の諜報員はしばしば他の分野、たとえば公的組織の者やさまざまな行政官、ルナーの国家カルトで責任ある地位にある者、更に一般の臣民の中からも選抜される。このような場合、一般に補充人員は専門化された業務を遂行するための能力が審議される。このような補充人員は参加に先だち、宗教的信念や、いくつか存在する愛国者集会の構成員である事によってルナーの国家に対する忠誠を示さねばならない。(これには例外もある。もっとも注目すべきは売春を生業としていた補充人員の場合である。彼らの場合帝国への忠誠の確認には別の方法が用いられる。)
「声」はもはや男性の聖域ではなくなっている。ルナー帝国はあらゆる領域で女性の価値を評価することに関しては先進的で、特に彼女たち有益であると考えられているスパイ行為に関してはそれが顕著である。それ故他勢力への浸透に関わる「声」の任務では、特に女性の特性を生かす方法が研究されているという事実は驚くに値しない。
概念的には「声」の活動範囲に限界は存在しない。赤の皇帝の耳目を体現する彼らは公私に関わらずルナー帝国内外のあらゆる領域で自由に調査活動を行っている(国家教会に対する“調査”は例外である。以下を参照のこと)。実際の“調査”とはある個人が最近の神殿の集会に出席していない理由を調べるというような些細な事から、政府を脅かす集団の探索、隣接する自由国家の市民の不安の扇動といった事まで幅広い活動を意味している。
上で述べられている通り、「声」の第一の目的は、追放による赤の皇帝の個人的安全保障の向上である。基本的にこれは身辺警護の提供に比重が置かれているが、通常の皇帝親衛隊(帝国軍からのエリートで構成されている)もすぐそばで同様の活動を行っている。競合関係にある二つの別の組織による警護こそ細心の注意が払われると皇帝は考えている。加えて「声」は多額の賄賂による誘惑にさらされる親衛隊に対して、警察活動とその選抜を行うために非常に効果的に配置されている。実際にこの仕事は帝国軍の中でもっとも信望のある職務である。
選抜の対象は軍全体、特に長きに渡り属領地で士官職を勤めてきたような者たちにも広げられている。おそらく中央のキャリア役人からの脅迫もある。彼らは十分に訓練されており、配下のものから尊敬と敬愛を集めている。絶えず異国的な見方と意見にさらされているため、彼らが扇動的な傾向を秘めてる事は少なくない。だがその一方で現実的にはそうした指揮官たちの間には反乱を行うことへの恐れがあまりなく(そうした行動の見返りがその後確実にもたらされる報復に見合うことは決してない)、そうした彼らの態度は兵たちの間に非効率的、もしくは怠惰な雰囲気を広めてしまう。「声」にはそうした士官たちの気を引き締める事が要求される。彼らは予想される軍の弱体化に対して事前の警告を確実に行うために、軍隊内での奇妙な行動や矛盾した行動を定期的に調査している。
こうした監視が軍による制限を受けることはない。実際の所、かなりの数の「声」の諜報員が中心地、属領地双方のルナー政府内で密かに活動している。税務、財務(調達、ならびに支払いを担当する)行政官には特に注意が払われている。誇り高き“税の魔”を誤って非難することが無い様、最大限の注意が払われてはいるのだが。
もっとも退屈な職務は公共部門での指導である。要請を受けた諜報員が宿屋、売春宿、集会場などを“ぶらぶら”し、そうした分野特有の行きすぎがないかを調べるのである。さらに近年、より多くの諜報員がこの領域の職務への異動された。
実際には、二つの領域が大きくはないにせよ問題を引き起こしつつある。ダギウス・フューリウスと軍情報部門に対する敬意がこの方面への浸透、調査を難しくしている。この問題の微妙な部分は二つの“組織”の人員がしばしば共有されることに起因している。時にはこれが、ある「声」の構成員が別の構成員を調査する、という事態につながる場合もある。これは必ずしも問題というわけではないものの、大多数はそうした調査が不必要であると感じている。こうしたものは皇帝の“意志”の領域である。
第二の“問題の領域”は、国内、および属領地の教会である。行動の自由は厳しく切りつめられており、主導権を有した形ではいかなる調査の余地もない。皇帝はこの領域に関しては「声」に主導権を与えていない。しかしこのことは、聖職、あるいは他の献身的な信者に誘惑や過ちをを受ける自由が与えられている、という意味ではない。「声」は教会のこうした側面の調査をも行うが、しかしそれには赤の皇帝の特別な命令が常に必要になる、ということである。
赤の皇帝が教会に対して手厚い保護を与えているが為に、「声」が霊的な導きを求めて教会に足を踏みいれる際にすら司祭の許可が必要になっている(2)。このことはしばしば将来起こりうる調査を難しくしている。もし何らかの理由で調査が下命された場合、諜報員が帝国を半分ほど旅してこなくてはならないケースが頻繁に発生する。なぜならその地域の諜報員のほとんどは聖職者に顔を知られているからである。さらに教会が「声」に対して有している特権がもう一つある。それは聖職者が自分自身、もしくは教会、もしくはその両方の保護を「声」の諜報員に依頼する事ができる、ということである。諜報員は、それがたとえみずからの身分を明らかにすることを意味しているとしても、その要請を受け入れなくてはならない。
激動の時代を迎え、「声」を様々な場所で目にするようになることは驚きに値しない。赤の皇帝がさまざな事象、そのすべてに備えているが故に、その活動は活発化しつつある。
しかし、「声」ですら不公正や権益の売買といった腐敗に侵されている。すでに、有力な一族――獰猛な保守的勢力――が調査官に対する影響力を勝ち得ており、彼らはあらかじめ決めておいた方法にのっとって調査を進めさせることができる。一時は飛ぶ鳥を落とす勢いのあった属領地司令官“博識”ファザールは、“扇動の指”(3)がその“進むべき道を指している”のに気付き(訳注:彼には扇動の嫌疑がかけられている)、権利に則ってエスロリアでのより厳しい活動を行うよう要請した。しかし正義の闘士、「声」の構成員であると噂される“聡明なる”タティウス”はファザールの配置転換に初めて成功したのである。
政府と軍隊の間に不信感が広まり、地方への影響力は弱まっている。低い地位の者の配置転換はより高い地位にある者や同盟国の軽蔑を生んでいる。多くの者が分別を失えば、たとえ危機的状況になくとも地方政府のシステムに手が加えられしてしまう。そして常に毒のある虚言とでっち上げられた悲しみとに囲まれた皇帝は、帝国の組織にはびこるという(偽りの)暴徒を「声」に追求させることで、扇動者の望みを適えてしまうのである。
皇帝の個人的な危機に際して安全を確保するために組織された「声」は10年を経て完全な組織となった。将来の役割が、知らず知らずのうちとはいえルナー勢力の凋落に手を貸すことになるとは何と皮肉なことだろう。
(1) アッピウス・ルクシウスは赤の皇帝から寵愛を受けている(彼が皇帝の息子の1人だと信じている者たちもいる)。アッピウスはルナー属領地における諜報員の効果的、効率的配置に大きな権限を有している。彼はその立場から懸念すべき、注意すべき地域、領域を正確に示すことができる。彼に対する「声」からの二度にわたる参加要請にもかかわらず、彼は「声」の構成員ではない。彼がその申し出を断った理由について、そのすべてが語られたことはない。
(2) この法規に関連して属領地収税吏ナッシ・ナサスの面白い話がある。
「およそ5年前、ターシュのオルムスゴーン渓谷に私が働いていた村があり、そこが獰猛な狼の群れに襲われました。狼を見かけてから時間があったこともあり、私を含めて皆教会へと駆け込みました。村の中で唯一その建物だけが完全に扉を閉め切ることができたからです。その時村には、歯の間から頻繁に唾を吐く嫌な振る舞いの軍の兵士もいました。彼は父親の死に際して休暇をとることを許され、この時は部隊に戻るためドラゴン・パスに戻る最中でした。彼は最後に寺院にたどり着きながら、扉の外をうろうろし、もじもじしていました。
最初の狼が村の敷地に入ってきたとき、兵士は自分が「声」の諜報員であり、聖職者から神殿に入る許可が必要である事を突然しゃべり始めました。私のよき友にして楽しい機知と笑顔の持ち主である司祭は、彼の要求に考えをめぐらしながらあご髭を撫でていました。その間中、諜報員はまるで鍋がテーブルに運ばれてくるのを待つ子供のようにそわそわしていました。結局は、最初のオオカミが視界に入ったとき、彼に許される選択枝と兵士の過去数日の振る舞いを考慮し、彼に許可を出さない事に決めたと司祭は宣言しました。ドアは速やかに閉じられました。神殿の二階へと大急ぎで駆け登った私は、そこでズボンを噛みちぎり取られた諜報員が木に登るところを眼にしました。それはなんともいえない時間でした。オオカミは、3日間村に留まり、その間中諜報員は木の上にずっと座っていなくてはなりませんでした。我々は寺院の屋根に上がり、彼に見えるようにしながら食事をし、彼のオリーブ嫌いを知りながら、彼にはオリーブしか投げ渡しませんでした。結局狼は去り、怪我をした者も誰もいませんでした。しかし司祭はみずからの機知の代償を払うことになりました。「声」はハートランド・ワインを積んで村にやってくるはずの者を捕まえ、ワインを没収してしまったのです。なお悪いことにそのワインは司祭が自分のポケット・マネーで買ったものでした。」
(3) “煽動の指”という言葉はメタファー、時には帝国や「声」に有害な特定の人物、またはや組織をさす称号として使用される。ルナー哲学ではしばしば帝国と人体とが対比される。感染した不治の病が広まる前に、病に冒されている患部を切除しなくてはならない。ある者が腐敗していると考えられた場合、“煽動の指”がその者の“望む道を指す”と言われる。
[トップへ戻る]
[What's New] / [いんふぉめーしょん] / [よくわかる?グローランサ]
/ [Art Gallery]
[灰色卿らいぶらり] / [既刊新刊]
/ [らんだむとーく]
/ [りんくす] / [BBS]
Webmaster: まりおん