ダラ・ハッパは今日のルナー帝国の中にある人口稠密な文化圏である。それを構成する3つの古代都市は、現在はいくつかのサトラッピの領邦とされている。トライポリスは言語、神話を共有しているが、それぞれがその守護神とユニークな外見を持っている。この記事に登場する住人はオスリル河とエリンフラース川の合流地点に位置する都、アルコス出身である。
我はコルヴァシュ。ドゥルヴヘンジャール家の者である。
我々はアルコスで最も古く由緒正しきドゥルヴヘンジャール家の一員だ。我々は騎馬の野蛮人どもの追放者、皇帝エウシブスの末裔である。エウシブスは“破壊するもの”シャーガシュの息子であり、偽りの騎馬皇帝たちを追放して世界の支配を正したのだ。しかし、征服帝コルダフがアルコスにやって来たとき、エウシブスは“真帝”の正義を認め、アルコスはダラ・ハッパ皇帝たちに仕えるようになった。まさしく、シャーガシュが“宇宙の皇帝”に仕えているようにだ。
我らが家門の王たちは豊かで強力だ。我ら戦士は家門のために戦い、都の中の位冠を得る名誉のために争う。今年は、ドゥルヴヘンジャール家は「皮剥ぎ門」の売買税徴税権を得た。そして、“赤き王”ブスジャズムは我が家から出ているのだ。
我らは“雷を呼ぶもの”シャーガシュの息子たちだからだ。アルコスは彼のお気に入りの都だ。なぜなら、我らが彼の呼び声に応え、我らの魂を彼に喰らわせるからだ。
イェルムが殺され正義が失われた後、シャーガシュは愛するものを全て破壊し、アルコスに置いた。世界には悪しき魔物や邪神がさまよい歩いていたが、アルコスの都、死者の地のシャーガシュの砦にあえて近づこうとする者はいなかった。“浄化するもの”シャーガシュが世界の破壊を舞ったときも、我らの都には人が住み、活気に溢れていた。ここはシャーガシュの館であり、我々はかの神の民である。
我々もまた、シャーガシュのために破壊を舞う。我々戦士が“雷を呼ぶもの”へ死の舞いを捧げるとき、何者もこれを阻むことはできない。我々の司祭は敵たちを“浄化するもの”に喰わせることで世界に燃料を与えている。我々の農民たちは稲を育てて“貪るもの”へ奉献することで我らが都の力を維持している。
男たちはシャーガシュとモーヘンガスを奉り、女たちはオスリラを祀る。モーヘンガスの男たちはオスリラを抱き留める水路や運河を掘る。オスリラの女たちは河の女神を喜ばせる歌を岸辺で歌い、その豊かな賜物を受け取る。男は力が強い。ゆえに重労働をする。女は忍耐強い。ゆえに良い品を作り、男と子供の面倒を見る。男は生命を破壊する炎であり、女は生命を維持する炎だ。“万象の王”が生命のリズムと儀式を見守る中で、男と女は一緒に終わり無き再生の舞いを舞うのだ。
信心の足らん者の中には、女は戦士にならんので女は男にくらべ位が低い、などというものもいる。そいつらは馬鹿者だ。女たちが家門の半分を占めること、賢き男は力の源を見逃すことはないことを忘れてはならない。女たちの中には封殺寺院の火葬儀式に副司祭として仕えるものさえいるのだ。彼女たちは魔物を召還し、地界の道をたどる。そのようにして灰の王たちに仕える者の勇気と重要さを疑うものなどおらん。
我らの一戸は家門によって所有されている「燃える館」の区画にある。
先祖の遺灰は緑の丘の麓にあるエウシブスの封殺寺院に収められている。多くの封殺寺院の中で、アルコスの偉大な緑の市壁の中にあるのはこの一つだけだ。それだけでこれは最も偉大な封殺寺院なのだ。シャーガシュの封殺寺院は地界の中に領土を持つ。そこには敵どもは恐れて立ち入ろうとしない。
アルコスはオスリル河の中流に位置する大沼沢地の中心を支配している。この都はシャーガシュが最初の妻、ビゼルエンスリーブに婚礼指輪を贈った際に建設された。彼女は粗野で恥を知らない沼沢の女神だった。彼女とシャーガシュの間の息子は「草の民」の祖先だ。すぐシャーガシュは恵み深きオスリラの方を選んで彼女を追い出した。オスリラが我らの先祖たちの母だ。
我はドゥルヴヘンジャール家のために戦うことで銀貨を得ている。今年は我は皮剥ぎ門の市場の警備をしているが、おそらく来年は我が家門が戦闘に用いる最高の傭兵団、「黒き槌」とともに戦いに赴くことができるだろう。我らは第弐位の身分であり、これは戦士と司祭の階級だ。民はこれを我らの子牛皮の長いトーガで見分ける。貴族──第壱位──のみがもっと長いトーガを着用できる。第参位──熟練工と商人──はひざまでのトーガしか着用できない。
ほとんどの民は第四位──労働者と農民たちだ。労働者たちは水路を掘ったり、食料や物品を高地から運んでくる河船から荷下ろしをしたりする。農民たちは稲を栽培し、小魚が作物の間に住みつくようにと歌を歌う。米、沼地の野菜類、そして少々の魚がほとんどの者の主食となっている。
都市住人の下にはいろいろな種類の「草の民」がいる。灰色足たちは都市から離れた沼地で稲や野生の根菜を育てている。泥人たちはカエルやエビ・カニを採集している。舟人たちは小舟以外に住処をもたない。時折彼らは河の岸辺に都市を造り、市場や寺院も完備する。これは全く狡賢い悪戯だ。なぜなら、彼らは税を課せられる前にいなくなってしまうのだから!
この地では交易は大きな仕事だ。アルコスはオスリル河、エリンフラース川の両方に対して帝国への門となっている。アルコスは都市で消費する乾地の産品(玉ねぎ、キャベツ、ワイン、肉類、羊毛、石材)を輸入する。我らの都は貿易品を輸出する。美しい敷物、陶器、ガラス製品、紙、衣類などだ。もちろん、この都の一番の輸出品は兵士だ。多くの豊かな家門が帝国と属領地に供出する傭兵団を養っている。アルコスの兵士は世界で一番だ。アルコス兵の一番の名誉は、ライバンスの帝国都市守備隊に雇われることだ!
お前が生まれたとき、母と我はお前の番が回ってくるまでシャーガシュが飢えることのないよう、“貪り喰うもの”に捧げる子牛を購入した。八歳になったときに、お前をバザデッシュ師の学院へ行かせるために、祖母は父がバグノットから略奪してきた素晴らしい黄金製の櫛を売った。彼はお前にシャーガシュの気に入る服従と剛胆さを教えてくれるだろう。母が別の道をゆくなら、師はお前に司祭となるための読み書きを教えてくれるだろう。
声変わりをして一週間したら、お前は初めて「大いなる舞い」に加わることができる。我が家門の男たちが皆集まり、醸したシャーガシュの血を飲み、ドラムを叩き、舞いを踊り叫びちらして神を呼び起こすのだ。彼が戦いの欲望にとりつかれ誰かに襲いかかったとき、我らはかの神が我らの中にいることを知る。おそらく、お前も喜びをもって戦うことだろう。戦いは街路に移り家につくまで続く。もしお前が生き残ることができたら、お前はアルコス人として生きることができよう。──生死に頓着せず、全ての道に満足する男になってな。
お前が最高の息子であるなら、お前は父の財産を相続することができるだろう。もしお前の兄弟がその資格があることを証明すれば、財産は分配されるだろう。
シャーガシュが我らを治める。彼はアルコスの市壁の中では第一の存在である。イェルムでさえもシャーガシュの館の中では言葉を発することはできない。シャーガシュの正義はアルコスの三人の王たちによって我らに明らかにされる。「緑の王」は“灰の王”シャーガシュに市壁の中の全ての者を贈る。彼は封殺寺院の中の全ての者を統べ、アルコーの大司祭である。「赤き王」は“破壊するもの”シャーガシュに外部の世界を贈る。彼はコスターディのサルタンや帝国の行政官、そして赤の皇帝に対処する。最も重要なのは、彼がダージーンの簒奪者どもを“貪り食うもの”へ喰らわせる時期を決めることだ。
「黒き王」も存在する(と思う)。彼はその下の王たちを導いているというが、それは我の分を越えた知識だ。“暗き道の王”はこの世界で目撃されることはほとんどない。我は彼が同時に赤き王でもあり緑の王でもあり、大いなる神秘も彼にとっては遊び道具にすぎないという話を聞いたことがある。
“赤の皇帝”は真のダラ・ハッパ皇帝である。「真なる皇帝」がいるので、世界は平和なのだ。もし真の皇帝が絶え、正しく後を継がれなかったときには、カツクルトゥムの統治が始まるだろう。そのとき、シャーガシュは再び世界の破壊を舞うことだろう。
服従が人を偉大にする。シャーガシュはイェルムに服従していたからだ。つらい仕事は人を偉大にする。シャーガシュは決して疲れを見せたことはないからだ。技巧は人を偉大にする。シャーガシュは一度として敗北したことはないからだ。シャーガシュへ供儀を捧げることは人を偉大にする。シャーガシュは宇宙の聖なる正義を守っているからだ。勇敢な子を多く育てることは人を偉大にする。子らは世界を再生させるからだ。
不服従は悪だ。それは正義を弱めてしまう。
カツクルトゥムは悪だ。カツクルトゥムは人の心の腐敗であり、不義の支配者の欲望であり、生命をもたらさない死だ。カツクルトゥムは真なる皇帝が統治を行っていないとフッツスツールに這いずり登る汚泥だ。彼は宇宙の正義を引き裂くすべを常に探している。お前はシャーガシュがした如く、かの者と戦い続けなくてはならない。
お前は熱心に働き、熱心に戦わねばならない。お前が賢く書かれた文字の声を聞くことができるなら、図書館の叔父のところに行くことになるかもしれんな。お前が力強く逞しくなったならば、父に従い戦士の道を舞うことになるかもしれん。もしどちらでもなければ、お前は労働者として働くことになるだろう。だがこれは恥ではないぞ。アルコス人として、お前はいつでもシャーガシュを信仰し、世界の再生の燃料とすることができるのだから。
我らは皆、シャーガシュの民だ。我らは正義を愛する。いつでも戦いを挑むことができるし、いつでも挑戦の名誉は受ける。弱き者、若き者たちを守れ。彼らは“生命の炎”のための食料なのだから。お前はアルコス人を、賢い言葉と肌の聖なる焼きごての痕で見分けることができるようになるだろう。
他のダラ・ハッパ人は尊敬をもって扱わねばならん。彼らは“正義”を熟知しており、頼りとすることができるだろう。だが彼らは自分たちの神が我らの神より弱きことに常に我慢ができるわけではない。帝国の他の住民にも、奇妙な風習を持っていたり、腹が弱かったりするが、尊敬できる者はいる。理解できないことも多いが。ダラ・ハッパ語もしゃべれない者も多いのだ!
「草の民」や「泥の民」はお前より下の存在だ。奴らは好色で汚らしいが、少なくとも奴らは聖なる秩序に従っている。異邦人からは守ってやらねばならない。
たとえ敵でなくとも、異邦人には気を付けなくてはならない。奴らが文明的なやり方に従って行動するなどとは考えないことだ。奴らが少しでも逆らったなら、気にせず殺してよい。奴らはシャーガシュの民ではないのだから、アルコス人に対するような名誉を以て接するのは不要だ。アルコス人は“正義”を遂行しているために尊敬を受けていることを忘れるな。他の者は火にくべる燃料以上の意味はない。
我らには多くの敵がいる。奴らは皆、「良き土地」の賜物をねらっているのだ。東方の騎馬遊牧民は我らに何度も襲いかかってきた。おそらく奴らが最悪だ。なぜなら奴らは常に支配を求めるが、その玉座に就けるのはカツクルトゥムに他ならないからだ。奴らは二度成功した。最近のものは、“悪魔”シェン・セレリス(その名よ呪われてあれ!)によるものだ。だがどちらの時も、シャーガシュはカツクルトゥムを放り落としてバラバラにしてくださった。
かつては、オーランスに従う体に絵を描いた蛮人どももしばしば襲ってきた。奴らは“正義”というものを知らなかったので、支配は求めなかった。奴らが望んだのは、我らの持つ米、黄金、そして女たちだ。多くのオーランス人が今も帝国辺境や属領地に住んでいるが、赤の女神がその多くをてなづけてくれた。ルナー人の中には「オーランス信者はシャーガシュを間違ったやり方で信仰している者たちだ」などと言うものもいるが、アルコス人はそんな戯言に耳を貸したことはない。
ディジジェルム(訳注:トロウル)たちは自分たちのためだけに世界を喰らう恐るべき怪物だ。奴らはあまりに不義なので、イェルムの光によって肌を焼かれるという。アカダイショウを殺すよりも素早く奴らを殺せ。だが奴らでさえも“破壊するもの”へ喰らわせてやるのを忘れるな。
ドラストールの不浄な穴ぐらより群がりでて来る怪物たちは、全ての者にとっての敵だ。赤の女神はかつて諸都市を支配していた古きカルマニアの支配者たちを殺すために奴らを使ったと聞く。赤の女神を讃えよ。──敵に対するに敵を用いるのは、最も優れた計略だ。
最も油断ならない敵は、邪道に陥ったダージーンの反逆のくずどもだ。天蓋帝の昔より、ダージーン人はイェルムの正義を認めようとせず、簒奪者マニマトや、好色なるアオサギの女神シュール・エンスリーブを好んで信仰している。我々は何度もきゃつらを叩きつぶしているが、奴らはいつもまるで蚊のように汚泥からわき上がってくるのだ。
我らアルコス人はイェルムの宮廷の「百神」を全て認めておる。お前は社でその写像を見たことがあるだろう──空の母なるエンテコス、大地の父なるロウドリル、トウモロコシの女神オリア…。しかし、アルコスではその中でも最も力ある神々のみが重要視されている。
オスリラとその娘“稲の母”エヴェーリナは、アルコスに賜物を与えてくれる。農民と女たちはその秘密を知っている。水溝さらいや水溝作りたちはオスリラとロウドリルの息子、モーヘンガスの神秘を知っておる。
帝国の国事に関わる事を望む、富裕な家門の者は皇帝のイェルムの道を舞う。これはビジーフ、あるいは“殺害されたイェルム”、“自己蘇生の神”、“不滅の神”の仮面としてである。特に敬虔なイェルム信者は、“破壊するもの”に殺され、封殺の地で安らい、再誕を経験するために他の都市からアルコスの大寺院にやって来るという話を聞いたことがある。他の都市で執り行われるこの儀式は酷いまがい物にすぎん!
商人達は、皇帝の忠実な貨幣持ち、ロカーノウスの秘密を知っている。ビューゼリ(天空の司祭)たちは天空の言葉を読みとるビューゼリアンの秘密を使う。泥の民と汚泥の民は、古き沼沢の女神ビゼルエンスリーブを信仰する。舟人はオスリラと、ビゼルエンスリーブの夫神イェステンドスを信仰している。
もちろん、アルコスの全住人はシャーガシュを信仰している。この都市では“雷を呼ぶもの”の霊気を感じずにいることなど出来ない。目を閉じ、耳を澄ませ。お前はかの神の寺院から心臓の鼓動が響いてくるのを感じることができるだろう。ダラ・ニとヘンジャール地方の多くの民もシャーガシュを信仰している。かの神の秘密を全て知る定命の者はほとんどいない。なぜならシャーガシュは多くの名を持つ神だからだ──百、おそらく千もの名を!
赤の女神はシャーガシュの妹神だと言う。彼女も死して地界へ赴き、以前より力を増して帰還した女神である。彼女は赤の皇帝の母神である。彼女は見者、聖者、魔術師たちに信仰されている。注意して彼らと歩を合わせよ。なぜなら彼らは狂人であり、神聖にして危険な者たちであるからだ。
ヤーナファル・ターニルズは美しきダラ・ハッパと恋に落ちたカルマニアの士官だった。彼は古き月の女神を地界から救い出そうと望んだ。彼女は自身で逃げ出すことができるほどの力を持たなかった。彼は魔術師を呼び集め、赤の女神を見つけるためにシャーガシュの道を辿り、彼女に生命を取り戻した。今日、ターニルズは異なる軍律を持った部隊が共に戦えるようにする魔術を提供している。
輝けるポーラリスはダラ・ハッパの軍団士官に信仰されている。ポーラリスは戦略、斥候、補給の複雑な舞いを導く。
我らアルコス人はスポーツと戦に耽溺する。お前のような若者は徒競走や格闘をし、槍投げとメイスによる戦闘を学ぶがよい。ポニー馬を飼う余裕のある者はポロをする。他の者はシールド・プッシュをする。
鋭敏な心の持ち主は、ウーラネキ(Ouranekki)(訳注:チェスのような遊び)をする。お前の母は良い指し手だった。彼女に聞けばお前に教えてくれるだろう。
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